基調講演「笑顔の心理学」

古満伊里(広島修道大学副学長・健康科学部教授)

私たちは「悲しいから泣く」のか,「泣くから悲しい」のか?

心理学の黎明期であった19世紀後半、アメリカ心理学の父と言われるウィリアム・ジェームズは,刺激に対する身体反応の知覚によって感情が生じると見なしました。つまり,悲しいから泣くのではなく,泣くから悲しいのです。しかしながらこの感情の末梢(身体)起源説は,感情についての私たちの常識とは少しばかりかけ離れているようにも思えます。つまり私たちの常識からすれば,例えば,肉親の死に直面して悲しみの感情がわき起こり,その結果として涙が頬を伝わると考える方がしっくりします。ジェームズ以来,この感情の起源に関する心理学的論争は,哲学や認知科学を巻き込みながら未だ明確な解答にたどり着いていません。

しかしながら近年,実験・測定機器の進歩によって,身体反応と感情生起との関係について精緻な分析が行えるようになりました。それに伴って「身体反応の後に感情が生起する」という,一見奇異にも思えるジェームズの末梢起源説を支持するようなデータが現れ始めました。この講演では,「笑う門には福来る」という非常にプラグマティックで明るいことわざについて,種々の心理学的実験データに関連づけながら解説してまいります。

古満伊里(ふるみつ・いさと)                      

■学歴      

1981年 広島修道大学人文学部人間関係学科心理学専攻卒業 
1986年 同大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得・満期退学
1999年 トロント大学大学院博士課程修了 (Ph.D. in Experimental Psychology)

■職歴      

1986年4月 東亜大学経営学部講師
1992年4月 東亜大学デザイン学部助教授
1998年4月 東亜大学工学部教授
2005年4月 東亜大学人間科学部教授
2015年4月 広島修道大学人文学部教授
2017年4月 広島修道大学健康科学部教授(現在に至る)
2020年4月 広島修道大学教学担当副学長に就任(現在に至る)

■主要著書・論文

  1. Traditional and Modern Eating in Japan. In: Meiselman H. (eds) Handbook of Eating and Drinking. Springer, Cham (共著) 2019/08
  2. 感情心理学:感情研究の基礎とその展開 培風館(共著) 2018/05
  3. あなたの知らない心理学-大学で学ぶ心理学入門- ナカニシヤ出版 (共著) 2015/07
  4. What Constitutes Traditional and Modern Eating? The Case of Japan. Nutrients, 10(2): 118.(共著) 2018/01